Guyan縮約と数値誤差に関するメモ(ちらしの裏)

数値計算
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背景ときっかけ

Guyan縮約を使って剛性マトリクスを縮約した場合と、全体剛性マトリクスの逆行列を計算してから対象自由度を抽出し、それを再び逆行列にして得られた剛性マトリクスとを比較してみた。

実際にはExcelで12×12のパワープラント周辺の剛性マトリクスを組み、等価な6×6のマトリクスに縮約してさまざまな計算を試みていた際に気づいた内容である。

理論上、どちらも同じような結果になるはずだが、実際には微妙な差が生じる。特に固有値解析後に固有ベクトルを使って相似変換を行った場合、Guyan縮約によるマトリクスでは非対角項が大きく残る(10^-3オーダー)、一方、全体逆行列を用いた方法では10^-15レベルに抑えられていた。

観察からの仮説

実は当初、”逆行列を2回使う” という操作は数値誤差の観点から見るとむしろ悪影響が出るのではないかと考えていた。1回の逆行列でも誤差は蓄積するのに、それをもう一度行うとなれば、なおさら不安定になる印象を持っていた。

ところが、実際に比較してみると結果は逆で、Guyan縮約による近似剛性マトリクスよりも、逆行列→抽出→再逆行列で構成した剛性マトリクスの方が明らかに精度が良いということがわかった。この逆転現象が今回の発見の原点でもある。

  • Guyan縮約では、除外(Omit)された自由度の剛性マトリクス(Koo)を反転し、そこを通じて残す自由度(aセット)に対する縮約剛性(Kaa)を再構成している。
  • 除外するということは、本来的に信頼性が低い(または精度が悪い、寄与が小さい)自由度である可能性が高く、そこを逆行列で使っている時点で、精度リスクをはらんでいる。
  • 結果として、Guyan縮約で得た剛性マトリクスは、理論的には対称でも数値的な非対称性や直交性の破綻が生じやすい。

一方で、全体の逆行列から対象自由度部分を抽出し、再び逆行列化して構成された剛性マトリクスは、初めから対象自由度だけにフォーカスして処理されており、誤差の発生や伝播が抑制されている。

NASTRANとの関連(a/oセット)

NASTRANの技術資料では、Guyan縮約は a セット(保持する自由度)と o セット(除外自由度)という2種類の自由度セットで扱われる。

  • o(omitted DOFs): 静的仮定により削除された自由度。
  • a(analysis DOFs?): 残す自由度。ここが縮約後に使われる主要な自由度となる。

これらは以下のような構造で記述される:

$$
\begin{bmatrix}
K_{aa} & K_{ao} \\
K_{oa} & K_{oo}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
u_a \\
u_o
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
F_a \\
F_o
\end{bmatrix}
$$

Guyan縮約では、

$$
u_o = -K_{oo}^{-1} K_{oa} u_a
$$

により \( u_o \) を排除し、

$$
K_{aa}^{\prime} = K_{aa} – K_{ao} K_{oo}^{-1} K_{oa}
$$

として再構成。

ここで重要なのは、省略された自由度 o を通じて a を構成している点であり、そもそも除外した成分に依存して構成するという構造的矛盾が、精度問題の根源であるということ。

類似現象との対応

この問題は、コレスキー分解による前処理(例:\( (L^{-1}) K (L^{-1})^T \)を行った場合にも似たような現象が起こる。固有値解析後に得られた固有ベクトルを用いて再び剛性マトリクスを対角化しようとすると、非対角項が消えきらないという現象である。

共通するのは、直交性や対称性が理論上成り立つはずなのに、数値的には微小誤差によってそれが崩れるという点である。

結論的なメモ

  • Guyan縮約は簡便で高速だが、「除外された自由度の逆行列を通じて主自由度を構成する」という構造から、数値誤差が構造的に混入しやすい。
  • 特に固有値解析のような直交性が求められる処理では、非直交・非対称な残差としてその影響が表面化する。
  • 一方、全体逆行列 → 抽出 → 再逆行列の方法は、初めから主自由度に対して直接的なアプローチを取っているため、誤差が抑制されやすく、信頼性が高い。

備考

この記録は、個人的な観察と検証に基づく非公式なメモであり、正式な理論証明を伴うものではない。いわば「ちらしの裏」に書き留めた自分用の気づきとして整理したもの。
更にマニアックに例えるなら軽トラのリアサスをリーフからド・デュオン・アクスルにこっそり変えたレベルの話であり、気づく人だけが気づけばいい程度の“ちらしの裏”メモである。

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