線形代数計算で定番のBLAS/LAPACK。高速かつ信頼性も高く、多くのライブラリの裏側で活躍しています。しかし、いざ自分で直接使おうとすると、
- 引数が多すぎる
- 配列の順番(1始まり vs 0始まり)や型の取り扱いが煩雑
- ドキュメントが読みにくい or 実装依存が強い
と、かなり手強い存在です。
そこでこの記事では、「LAPACKそのままはツライ。でも線形代数を快適に使いたい」という人に向けて、ざっと調べた内容を
- 言語別のおすすめライブラリ
- ラッパー方式ごとの違い
の2つの軸で、線形代数ライブラリを比較・紹介します。
言語別:ライブラリ比較
まずは「自分が何の言語で書くか」から逆引きしたい人向けに、言語ごとの代表的なライブラリを整理します。
言語 | ライブラリ | 背景・特徴 | 長所 | 注意点 |
---|---|---|---|---|
C++ | Eigen | テンプレート主体で直感的な演算記法 | 可読性◎、高速、依存ゼロ | テンプレート慣れ必要 |
Armadillo | MATLABライクな記法 + LAPACK/BLS自動連携 | 書きやすさ抜群 | リンク設定に注意 | |
Blaze | 式テンプレート最適化で爆速 | 高速性に特化 | 記法がややクセ強め | |
Fortran | LAPACK(生) | 元祖 | 高速・信頼性 | 引数地獄、配列1始まり |
f2py | Pythonバインディング用ラッパー生成 | 最短ルートで再利用可 | 型と配列順に注意 | |
Python | NumPy / SciPy | 高水準、BLAS/LAPACKを内包 | お手軽・豊富な関数 | 処理の中身はブラックボックス気味 |
CuPy | NumPy互換でGPU対応 | 並列化しやすい | API制限あり | |
Numba | 関数単位でJIT化可能 | 簡単に高速化 | NumPyとの相性が前提 | |
C++⇔Python連携 | pybind11 | C++資産をPythonから使える | 高自由度・高速 | 書く手間多め、ビルド環境必要 |
Cython | CベースのPython拡張 | numpyと親和性高い | 書き味が中途半端 | |
SWIG | 自動でバインディング生成 | 多言語対応 | 出力コードの理解が難解 | |
GPU | cuBLAS / cuSolver | NVIDIA公式、CUDA対応線形代数 | 超高速 | CUDA依存、学習コスト高 |
ラッパー別:ライブラリ比較
こちらはLAPACKをラップしたライブラリーの比較です。実績のあるLAPACKを使いたい人向けです。
ライブラリ | LAPACKとの関係 | 線形代数ラッパーとしての役割 | 得意な分野 | 長所 | 短所 |
---|---|---|---|---|---|
Eigen | デフォルトではLAPACK非依存(必要に応じて統合可能) | 線形代数全般をカバー(独自実装が多い) | 小規模~中規模行列、固有値計算、テンソル計算 | – 独自の高性能テンプレート実装 – シンプルな記法 – 動的・固定サイズ両方に対応 – LAPACK統合可能 | – 大規模行列や並列処理でIntel MKLほどの性能が出ない場合がある |
Armadillo | 完全にLAPACK/BLAS依存(内部で利用) | LAPACK/BLASをラップし、MATLABライクな記法を提供 | 行列計算、統計、信号処理 | – 簡潔で直感的な記法 – LAPACK/BLASを利用した効率的な分解や固有値計算 – 動的サイズに強い | – 高次元テンソルのサポートが弱い – 固有値計算などでEigenに劣る場合がある |
Boost uBLAS | LAPACKと統合可能(ユーザーが手動でリンク) | ベクトル・行列演算の基本的操作をラップ | 小規模行列計算、Boostライブラリの統合 | – Boost環境とのシームレスな統合 – 基本的な線形代数操作が簡単 – ヘッダーオンリー | – 性能が他ライブラリ(Eigen, Armadillo)に劣る – LAPACK利用時の設定が必要 |
Intel MKL | LAPACK/BLASの最適化された実装(完全互換) | LAPACKの高性能実装として機能 | 大規模行列計算、並列処理 | – 並列処理対応 – 高性能なBLAS/LAPACK – Intelプロセッサ向け最適化 | – セットアップが複雑 – 商用ライセンスが必要な場合がある |
OpenBLAS | LAPACK/BLASのオープンソース実装 | LAPACKそのものを提供 | ベクトル化された行列計算 | – 無料で利用可能 – 高性能で広範なプラットフォーム対応 – 他のライブラリと組み合わせ可能 | – 低レベルインターフェース – 他の高レベルラッパー(Eigen, Armadillo)ほど使いやすくない |
SciPy (Python) | Python環境でのLAPACKラッパー(NumPyと統合) | LAPACKの全機能をPythonから利用 | プロトタイピング、小規模行列計算 | – 簡単なインターフェース – Pythonの豊富なエコシステムとの統合 | – C++環境では利用できない – 極端に大規模な行列計算には向かない |
固有値などの数値計算でそこまで大きいサイズの行列を扱わないのであれば、Eigenが良さそうですね。
ユースケース別まとめ
ニーズ | 選択肢 |
可読性重視(C++) | Armadillo, Eigen |
計算速度重視 | Blaze, cuBLAS |
GPU活用したい | cuPy, cuBLAS |
既存コードをPythonから使いたい | pybind11, f2py |
JITで手軽に高速化 | Numba |
おわりに
線形代数ライブラリを選ぶ際は、単に「速いかどうか」だけでなく、
- 言語との親和性
- 開発効率
- 管理・保守のしやすさ
など、さまざまな観点から「ちょうどいい落としどころ」を選でください。
※本記事で紹介しているライブラリは、調査時点ではすべて無料で利用可能です。ただし、商用利用を検討している場合は、必ず各ライブラリのライセンス条項をご確認ください。
LAPACKを直接触らずとも、その恩恵を享受できる手段はたくさんあることが分かりました。自分の開発スタイルに合ったライブラリを、ぜひ見つけてください。Let’s enjoy your HACK!
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